初めて会ったとき、彼は歌っていました。
バンドをしているだとかで、ギターを爪弾いていたのです。
話しかけるのにもほんの少し躊躇しましたが、私は声を掛けました。
すると彼は手を止めて
「はじめまして」そう笑いました。
‘友達の友達‘
それだけの関係だったはずの私たちですが、連絡先を交換してからというものの
何かあれば話をするようになって居ました。
時には何の理由も無く
「ただ、話をしたいからかけていい?」
なんて聞かれることもありました。
彼との日々は、友達として穏やかに流れて行きました。
そしてその流れの中で私は彼を好きになっていきました。
自覚はしていましたが、どこか私の中で割り切れないものがありました。
それは過去に対する思いです。
大好きで「この人が最後」だと言うくらいに愛した彼。
結局は、裏切りにも近い形で別れてしまったのですが。
その人にずっと未練のようなものを残していた私は、いつしかその未練を手放すのが怖くなってしまっていたのです。
彼の事を好きになるたびに手放してしまうようで複雑な心理状態が芽生えていました。
「俺、お前のことを好きになったんだけど」
そんな告白を受けた時、私は元彼のことをすんなりと消すことができました。
どうやら、知らぬ間に私が彼に寄せる思いは身の丈を超えるほど大きく成長していたようです。